さて、ここまでのあらすじは書きませんので、気になる方は前回記事の「労基署から勧告があったお話し[その壱]」をご覧ください。では本題(前回のつづき)です。
知らなかったばかりに 結構な損害
事業主Aさんが労基署に問い合わせたところ、解雇予告手当の勧告に至った経緯について以下の通り教えられました。
(A)男性は雇用が開始は8月26日であり、この日が正式な採用日だと認識していた。
(B)事業主に対して何度も労働契約書か労働条件通知書の交付を要求したが対応してもらえなかった。
(C)欠勤に正当な理由があるにもかかわらず、9月5日の電話で一方的に解雇を言い渡された。
これに対して事業主Aさんは、、、。
(A)9月1日オープンの新店舗スタート日が本契約開始日と認識。
(B)9月1日オープンの新店舗スタート日に渡すと伝えている。
(C)無断欠勤となっている日があり「正当な理由」は成立しないと考えている。
そして、塩の他にも気になる点があります。
仮に男性の言う通り、8月26日が雇用開始日だったとしましょう。
でも「もう来なくてもいいよ」と雇用の打ち切りを伝えたのは9月5日。
つまり、この間に2週間も経過していないのです。
新たに雇い入れをした場合、一定の『試用期間』を設定する事業主さんは多いと思います。
ちなみに、法的には『試用期間』として有効なのは2週間です。
会社独自に2週間を超えて『試用期間』を1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と設定するのは自由ですが、法的に有効性があるのは、先述の通り2週間と考えてください。
また『試用期間』を設定している場合、その期間中(2週間)の雇用打ち切りであれば、就業規則に特別な規定が無ければ解雇予告手当の支払い義務は事業主さんに発生しないとの考えが一般的です。
つまり、事業主Aさんの会社も『使用期間』は2週間の設定をされていましたので、解雇予告手当の支払い義務は無いとも考えられます。 当方の提携する社労士も弁護士も同じ意見でした。
ところが、再度 労基署に問い合わせると、もう少し詳しく説明してくれました。
詳しく解説すると
話によれば。。。
・9月1日から開店する店への配属は明確だったが、そのための準備段階(8月26日)から労働を提供していた。
・新店舗の要員として採用されたが、即戦力との評価で雇用されたと男性は認識していた。
・即戦力であるからには『試用期間』が有るとは考えなかったし『試用期間』についての説明も無かった。
・この様なトラブルを避けるため、労働条件通知書の交付を何度も事業主に依頼していた。
・労働条件通知書の交付を催促するも、結果的に書類の交付は無かった。
・・・・・・・いかがでしょう?
上記5点を見れば、事業主側に問題が無かったとは言い切れなくなりました。
当方の提携する弁護士も「勝てませんね」と判断が変わりました。
労基署の判断をまとめると以下の通りでしょう。
・労働をさせた8月26日を正式な採用日と認定。
・採用に『試用期間』を設けているとの説明や書類が無いため『試用期間』は無かったと認定。
・『試用期間』ではなく通常採用した労働者との雇用解除と認定。
・8月26日に労働をさせた時点で事業主から労働条件についての明示がなされていない事も問題。
その結果、労働基準法の第20条が定める「解雇には30日前の予告が必要」に抵触するとされ、30日分の解雇予告手当の支払いを行う必要があるとの結論に至った様です。
上記の事から、採用時に気を付けるポイントを整理しましょう。
① たとえアルバイトやパート、日雇いであっても雇用に関する書面を作成し、早めに本人に交付・通知・共有しましょう。
② 試用期間が有る場合は、しっかりと雇用関係書面に明記して本人に通知しましょう。
③ 週に20時間以上労働する人を採用した場合、雇用保険の加入手続きを採用後速やかに行いましょう。
④ 週に30時間以上労働する人を採用した場合、社会保険の加入手続きを採用後速やかに行いましょう。
⑤ドンブリ勘定的な採用(雇用)はやめましょう。
一旦、労基署が勧告を出すと、よほどの事が無い限り撤回される事はありません。
今回ならば、被害者であるとして労基署に訴え出た男性が「私の説明に誤りがありましたので取り下げてください」と申し出る事が無い限り、事業主Aさんは期限内に請求されている解雇予告手当の支払いをする義務を負います。
つまり、本件の決着は事業主Aさんが男性に請求額を支払う事が唯一手段となりました。
以上が「労基署から勧告があったお話し 」です。 おしまい。
ここから後も ソコソコ恐いのです
いやいや、実はこのお話には続きがあります。
ちょっと興味深いので、書く事にしました。
実は、この欠勤しまくりの男性。
雇用開始日であり初出勤日であった9月1日は、別の会社が経営する美容室のD店に行って採用面接を受けていたのです。
ビックリですね。 母親の体調を理由に欠勤して同業他社の面接に出かけていたのです。
そして、その面接をした会社(美容室)では、フルタイム勤務で採用決定をもらったのですが、ここでも出勤予定日初日から欠勤して1度も出勤していないとの事でした。
また、同じように会社に対して雇用に関する書面の提出を求めてるのですが、欠勤のままですから交付も取り交わしも不可能であったため、各種保険の手続きを含めて、まだ実施されていません。
つまり、男性は口頭ではありますが、2社同時に在籍?所属?、あるいは雇用契約を成立させていた事になります。
そして、両方に対して雇用関係書類の受け渡しを約束した日から欠勤しはじめ、最終的には事業主に「解雇」を言わせる事を仕組んだ可能性を感じます。
なぜなら、9月半ばにはD店からの雇用契約解除が無いタイミングで、さらに別の美容室であるE店に面接に行き、10月からフルタイムで勤務する予定になっている事が後に確認できたからです。
E店についての詳細は今のところ未確認ですが、どうやらこの男性は「面接(見学)→欠勤→労基署→請求」を繰り返している疑いが濃厚ですね。
採用時のトラブルは業界問わず、経営のご経験が浅い事業主さんで発生する場合が多いと感じます。
賃金構成や評価基準のルール化作成などには熱心に取り組まれますが、採用手順や各種保険手続き、労務の管理方法や事業所として法的にとるべき手段の認識など、ご存じない事が有るからだと思います。
悪意と知識を持って持って近づく人物にが存在する限り、事業所はそれなりの準備や装備が必要です。
手口や情報がネットで簡単に入手できる昨今、企業(会社)から金銭をせしめようとす輩が増加しています。
したがって、採用時だけでなく日々の労務についても、定期的なメンテナンスや見直しを行う事も、ご自身(会社)を守るために必要では無いかと思います。
もし「気になるな」とお感じになれば、ぜひ当方にご一報ください。
大阪市(一部近郊の市)、堺市であれば担当者がうかがって、私共がお役に立つかどうかをご案内させていただきます。
(状況確認やご提案は無料です。お客様にメリットが無いと判断された場合、当方担当者はそのまま帰社いたします)
では最後に、なぜD店やE店の状況まで私が知っているかです。
実はD店のオーナーさんは事業主Aさんの友人で、E店のオーナーさんは事業主Aさんの後輩だったのです。
世間は広い様で狭い。
現在、3名の事業主さんは弁護士さんにいろいろとご相談中の様です。